能力より先に必要なもの~社会情動的スキルを育てる成長型マインドセットとは~

私たちは誰かの成長を考えるとき、

  • 知識を増やす
  • 技術を身につける
  • 経験を積む

といったことに目を向けがちです。

もちろん、それらは大切です。

しかし近年の研究では、

能力そのものよりも、その能力が伸びると信じられるかどうか

が重要であることが分かってきています。

今回は、OECDが実施した「社会情動的スキル調査(SSES)」をもとに行われた研究から、成長型マインドセットと社会情動的スキルの関係について考えてみたいと思います。


目次

成長型マインドセットとは?

成長型マインドセット(Growth Mindset)とは、

「能力や性格は努力や経験によって成長できる」

という考え方です。

反対に、

「能力は生まれつき決まっていて大きくは変わらない」

という考え方を固定型マインドセット(Fixed Mindset)と呼びます。

例えば、

失敗した時に

「やっぱり自分には向いていない」

と考えるのか、

「まだできるようになっていないだけ」

と考えるのか。

この違いが、その後の行動を大きく左右します。


社会情動的スキルとは?

社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)は、

学力やIQでは測れない力です。

具体的には、

  • 責任感
  • 自己統制
  • 粘り強さ
  • 協力性
  • 共感性
  • 楽観性
  • ストレス耐性
  • コミュニケーション能力

などが含まれます。

近年では「非認知能力」と呼ばれることもあります。

これらの能力は、

  • 学業成績
  • 人間関係
  • 健康
  • 就職
  • 収入

など、人生のさまざまな場面に影響することが分かっています。


OECDの調査で見えてきたこと

今回の研究では、中国・蘇州市の約7,000人以上の子どもを対象に調査が行われました。

その結果、

成長型マインドセットが高い子どもほど、社会情動的スキルも高い

ことが分かりました。

つまり、

「人は変われる」

と信じている子どもほど、

  • 責任感がある
  • 協力的である
  • 自己統制ができる
  • 粘り強い
  • 楽観的である

傾向が見られたのです。

また、この関連は10歳よりも15歳でより強く確認されました。

年齢を重ねるにつれて、

自分自身に対する信念が行動や感情に与える影響が大きくなる可能性が示唆されています。


親の考え方も子どもの成長に影響する

興味深いことに、

親自身が

「人は成長できる」

と考えているほど、

子どもの社会情動的スキルも高い傾向がありました。

私たちはつい、

「何を教えるか」

に意識を向けます。

しかし実際には、

  • 失敗をどう捉えるか
  • 努力をどう評価するか
  • どんな言葉をかけるか

といった周囲の価値観そのものが、子どもの成長に影響している可能性があります。


就労支援の現場で考える

この研究は教育分野の研究ですが、就労支援にも非常に重要な示唆を与えてくれます。

就労支援では、

  • パソコン操作
  • 清掃技術
  • 軽作業
  • 接客技術

などのスキル獲得が重視されることがあります。

もちろん、それらは就職に必要な能力です。

しかし実際の職場では、

技術以上に求められるものがあります。

例えば、

  • 時間を守る
  • 報告や相談ができる
  • 他者と協力できる
  • 指摘を受け入れられる
  • 失敗しても立て直せる
  • 継続して取り組める

といった力です。

これらはまさに社会情動的スキルであり、Employability Skills(働くための土台となる能力)と呼ばれるものでもあります。


「できるようになる」前に必要なこと

では、こうした能力はどのように育つのでしょうか。

今回の研究は、

その土台に

「自分は変われる」

という信念がある可能性を示しています。

例えば、

「どうせ無理」

と思っている人は、

挑戦する前に諦めてしまうかもしれません。

失敗した時も、

「やっぱり無理だった」

と解釈してしまいます。

一方で、

「まだできていないだけ」

と考えられる人は、

失敗を学習機会として捉えやすくなります。

その結果、

挑戦する機会が増え、

経験が増え、

少しずつ成功体験が積み重なっていきます。

そしてその積み重ねが、

責任感や自己統制、粘り強さといった社会情動的スキルを育てていくのです。


支援者にできること

私たち支援者ができることは、

単に技術を教えることだけではありません。

  • 小さな成功体験を作る
  • 挑戦できる環境を整える
  • 失敗を否定しない
  • 成長を言語化する
  • 「できたこと」に目を向ける

こうした関わりを通して、

利用者自身が

「自分も変われるかもしれない」

と思えるようになることが重要です。


まとめ

今回の研究では、

成長型マインドセットが高い子どもほど、

責任感、自己統制、協力性、粘り強さなどの社会情動的スキルが高いことが示されました。

また、その関係は年齢が上がるほど強くなり、親の考え方も影響していました。

私たちはつい、

「何を教えるか」

に目を向けがちです。

しかし、その前に必要なのは、

「自分は成長できる」と信じられること

なのかもしれません。

能力を育てるためには、まず能力が伸びると信じられる環境が必要です。

社会情動的スキルも、働く力も、その土台の上に育っていくのではないでしょうか。


参考文献

Huang Z, Shang K, Zhang J. The Growth Mindset and Student Social and Emotional Skill Development: An Empirical Analysis Based on the OECD’s SSES. Best Evidence in Chinese Education. 2023;14(1):1745-1749.

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