「やった方がいいのは分かっているんだけど、なかなか行動できない。」
そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
例えば、
- 運動した方が健康に良い
- 勉強した方が成績が上がる
- 早く寝た方が体調が良くなる
こうしたことは多くの人が知っています。
それなのに、実際に行動できる人とできない人がいます。
なぜ同じ知識を持っていても、その違いが生まれるのでしょうか。
この疑問に対して心理学者アルバート・バンデューラは、「自己効力感(Self-Efficacy)」という概念を提唱しました。
今回は自己効力感と結果期待(Outcome Expectancy)という2つの考え方から、人が行動する理由について考えてみます。
結果期待とは何か
結果期待(Outcome Expectancy)とは、
「ある行動を取れば、特定の結果が得られる」
という予測のことです。
例えば、
- 運動すれば健康になる
- 勉強すれば成績が上がる
- リハビリを続ければ身体機能が改善する
といった考え方です。
つまり、
「その行動には価値がある」
と思える状態です。
しかし、バンデューラはここで重要な指摘をしています。
人は結果を信じているだけでは行動しないというのです。
自己効力感とは何か
自己効力感(Self-Efficacy)とは、
「自分にはその行動を実行できる」
という信念のことです。
例えば、
- 運動が健康に良いことは知っている
- でも自分には続けられない
という人がいます。
この場合、
結果期待は高い状態です。
しかし、
自己効力感は低い状態です。
一方で、
- 運動は健康に良い
- 自分にも続けられそうだ
と思える人は、
結果期待も自己効力感も高い状態になります。
なぜ知識だけでは人は動かないのか
バンデューラは、
人は「それが良いことだ」と知っているだけでは行動しないと考えました。
例えば禁煙を考えてみます。
多くの喫煙者は、
「禁煙した方が健康に良い」
ことを知っています。
しかし、
「自分には禁煙できない」
と思っている場合、実際には行動に移りません。
つまり、
結果期待が高くても、
自己効力感が低いと行動は起こりにくいのです。
自己効力感はどこから生まれるのか
バンデューラは、自己効力感を形成する要因として4つを挙げています。
1. 成功体験(Mastery Experience)
最も強力な要因です。
実際にやってみて成功した経験は、
「自分にもできる」
という感覚を生み出します。
2. 代理経験(Vicarious Experience)
自分と似た人が成功する姿を見ることです。
「この人にできるなら、自分にもできるかもしれない」
という感覚につながります。
3. 言語的説得(Verbal Persuasion)
励ましやフィードバックです。
ただし、成功体験ほど強い影響は持たないとされています。
4. 生理的・感情的状態
不安や緊張、疲労感なども自己効力感に影響します。
身体状態が良いときは「できそう」と感じやすく、
逆に強い不安を感じると「できなさそう」と感じやすくなります。
自己効力感は未来の見方まで変える
自己効力感の面白いところは、
単に行動を変えるだけではありません。
未来の予測にも影響します。
例えば同じ課題を前にした二人がいたとします。
一人は
「自分ならできる」
と思っています。
もう一人は
「自分には無理だ」
と思っています。
すると、
前者は
「うまくいきそうだ」
と考えやすくなります。
後者は
「失敗しそうだ」
と考えやすくなります。
つまり、
自己効力感は未来に対する見通しにも影響を与えるのです。
自信と自己効力感は同じなのか
自己効力感は一般的に「自信」と似た意味で使われることがあります。
しかし、心理学的には少し違います。
自己効力感は、
「自分にはこの行動ができる」
という特定の課題に対する信念です。
例えば、
- 運動は続けられる
- 人前で話せる
- 勉強を継続できる
などです。
一方で、
漠然とした「自信」はもっと広い意味で使われます。
そのため、
自己効力感は「行動に直結する自信」と考えると理解しやすいかもしれません。
本当に人を動かすもの
私たちはつい、
知識が増えれば行動できると思いがちです。
しかしバンデューラの研究は、
知識だけでは十分ではないことを示しています。
人が行動するためには、
「その行動に価値がある」
と思うだけでなく、
「自分にもできる」
と思えることが必要なのです。
そしてその感覚は、
実際の経験の積み重ねによって育まれていきます。
参考文献
Bandura A. Self-Efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change. Psychological Review. 1977;84(2):191-215.
Bandura A. Self-Efficacy: The Exercise of Control. New York: W.H. Freeman; 1997.
Artino AR Jr. Academic Self-Efficacy: From Educational Theory to Instructional Practice. Perspectives on Medical Education. 2012;1:76-85.

