「また失敗する気がする」
「自分には無理かもしれない」
「ちゃんとしなきゃ」
「落ち着け、大丈夫」
人は1日の中で、無数の“自分への言葉”を使っています。
この“頭の中の会話”は、心理学では「セルフトーク(self-talk)」と呼ばれています。
最近の研究では、このセルフトークが単なる独り言ではなく、
- 感情
- 行動
- 集中力
- パフォーマンス
- 自己イメージ
などに深く関わっていることが分かってきました。
今回は、
「Self-Talk: An Interdisciplinary Review and Transdisciplinary Model」
というレビュー論文をもとに、
“人は言葉で自分を作っている”
というテーマについて考えてみます。
セルフトークとは何か?
セルフトークとは、
「自分に向けて使う言葉」
のことです。
例えば、
- 「疲れた」
- 「なんでできないんだ」
- 「あと1回」
- 「呼吸を整えよう」
- 「大丈夫」
こういった言葉は、
口に出していなくても、
頭の中で使われていればセルフトークに含まれます。
人は“言葉”で自分を調整している
この論文で興味深いのは、
セルフトークは“自己調整システム”である
という考え方です。
つまり人は、
- 言葉で感情を整理し
- 言葉で集中を作り
- 言葉で行動を制御し
- 言葉で自分を評価している
ということです。
例えばスポーツの場面でも、
- 「押す」
- 「胸を張る」
- 「呼吸」
- 「落ち着け」
のような短い言葉が、
実際に動作や集中力へ影響を与えることが知られています。
これは単なる気合いではなく、
脳の注意システムや行動制御と関係しています。
「自然に浮かぶ言葉」と「意図的に使う言葉」
論文では、
セルフトークを大きく2つに分けています。
① Organic self-talk
自然発生的セルフトーク
これは勝手に浮かんでくる言葉です。
- 「またダメだ」
- 「嫌われたかも」
- 「疲れた」
- 「どうせ無理」
不安やストレスが強い時ほど、
ネガティブなセルフトークは増えやすいと言われています。
② Strategic self-talk
戦略的セルフトーク
こちらは、
自分を調整するために意図的に使う言葉です。
- 「落ち着こう」
- 「まず1つずつ」
- 「呼吸」
- 「今やるべきことに集中」
スポーツや心理療法などでも活用されています。
「どうせ無理」が無力感を強めることがある
この研究で特に重要なのが、
“言葉が感情を作る”
という視点です。
普通は、
「不安だからネガティブになる」
と思いがちです。
しかし研究では、
ネガティブなセルフトークそのものが、
不安や無力感を維持している可能性
も示されています。
つまり、
- 「また失敗する」
- 「自分はダメだ」
- 「何をやっても変わらない」
という言葉を繰り返すことで、
脳がその状態を学習していく可能性がある。
これは、
“学習性無力感”の研究とも繋がる部分があります。
自分への言葉は、身体にも影響する
セルフトーク研究は、
スポーツ科学でも多く行われています。
例えば、
- 集中力
- 疲労耐性
- 動作精度
- パフォーマンス
- 不安コントロール
などに影響することが報告されています。
つまり、
言葉は“精神論”ではなく、
身体操作にも関与している
ということです。
トレーニング中でも、
「ちゃんと収縮を感じよう」
より、
「脇を締める」
「床を押す」
のような短く具体的な言葉の方が、
動作が安定することがあります。
「自分を客観視する言葉」が役立つこともある
最近は、
三人称セルフトーク
も注目されています。
例えば、
- 「自分はダメだ」
ではなく、 - 「今の自分に必要なのは何だろう?」
あるいは、
- 「○○ならどうする?」
と考える方法です。
これは、
感情との距離を少し取ることで、
- 冷静さ
- 不安軽減
- 判断力
に役立つ可能性があります。
人は、自分の言葉を聞いている
この論文を読んでいて感じるのは、
人は“自分が使った言葉”の影響を受け続ける
ということです。
そしてそれは、
他人からかけられた言葉も同じかもしれません。
特に、
- 親
- 指導者
- パートナー
- コーチ
から繰り返し受けた言葉は、
やがて自分のセルフトークとして内側に残ることがあります。
だからこそ、
「どんな言葉を使うか」は、
単なる口癖ではなく、
自分の状態を作る習慣
なのかもしれません。
参考文献
- Van Raalte JL, Vincent A, Brewer BW. Self-Talk: An Interdisciplinary Review and Transdisciplinary Model. Perspectives on Psychological Science. 2016.
- Latinjak AT, et al. A Systematic Review of Self-Talk Strategies. 2023.
- SAGE Journals
“Self-Talk: A Transdisciplinary Review”
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/10892680231170263

