今回からうつ病の治療に関する最新の研究を何回かのシリーズに分けて紹介していこうと思います。
うつ病という言葉は、いまや誰にとっても身近なものになりました。
世界では3億人以上がうつ病を抱えており、その数は年々増え続けています。
そして実は「うつ」は、世界で最も多くの人が苦しむ“障害のひとつとされています。
抗うつ薬は確かに多くの人を助けてきました。
しかし、治療を始めた人のうち約半数は十分に改善せず、
副作用や服薬中断に悩むケースも少なくありません。
そんな中、近年の研究で再び注目されているのが「運動」です。
運動がもたらす“抗うつ作用”
アメリカ・サウスカロライナ医科大学の研究チーム(Rossら, 2023)は、
数十年にわたる研究を総合的に分析し、こう結論づけました。
「運動は薬物療法と同等の効果を持ち、
しかも副作用がなく、全身の健康も同時に改善する。」
運動を習慣的に行う人は、そうでない人に比べてうつになるリスクが25〜30%低下。
特に、1回30〜60分・週3〜5回の運動が最も効果的であることがわかっています。
つまり運動は、「気分を良くする」だけではなく、
科学的にうつを改善する治療法としての地位を確立しつつあるのです。
運動の“もう一つの顔”
運動の効果は心だけではありません。
心臓病、糖尿病、肥満などの生活習慣病リスクも下げ、
睡眠の質を高め、集中力や意欲を回復させます。
「体を動かす」ことは、
実は脳を動かし、心を整える行為でもあるのです。
筋肉と脳はホルモンや神経伝達物質を通じて互いにコミュニケーションしており、
運動はその“会話”を取り戻すスイッチになります。
運動は“心のリハビリ”
研究チームは、薬やカウンセリングだけでなく、
運動を「第一選択の補助療法」として取り入れるべきだと提言しています。
これは「薬をやめよう」という話ではなく、
むしろ、薬+運動の組み合わせが最も効果的だという意味です。
気持ちが落ちて体を動かすのが難しいときは、
まず薬で気分を少し安定させ、
その後に少しずつ歩く・伸ばす・動かす。
それだけでも、脳の回復は始まります。
次回予告
次回は、
「どんな運動がうつに効くのか?」
有酸素運動と筋トレ、それぞれの効果の違いを科学的に解説します。
お楽しみに!


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