こんにちは。就労継続支援B型事業所 明石ぜろぽじです😊
今回は「摂食障害」に関する内容になります。
拒食症や過食症といった摂食障害を抱える人の多くは、運動との関わり方にも大きな特徴があります。過度な運動、食べすぎた後の「代償行動」としての運動、または強迫的に体を動かさずにはいられない「機能不全的な運動(dysfunctional exercise)」などです。
実際の研究では、摂食障害患者の22〜80%がこのような運動習慣を持つと報告されています。これは症状の悪化や回復の妨げにつながる一方で、適切な条件下で行う運動は回復を支える力にもなると注目されています。
運動が引き起こしうるリスク
最新のレビュー論文では、運動によって悪化し得るリスクが6つの領域にまとめられています。
1. エネルギー利用可能性(Low Energy Availability, LEA)
- 摂取エネルギーが運動や基礎代謝をまかなえない状態
- ホルモン異常や免疫機能低下を引き起こす要因に
2. 心血管系への負担
- 低体重や電解質異常がある中での運動は、不整脈や心停止などのリスクを高める
3. 電解質異常
- 嘔吐や下剤乱用による低カリウム血症に、運動が加わると筋力低下・心機能障害が悪化
4. 生体機能マーカーの悪化
- 腎機能・肝機能への負担が大きくなり、運動でさらにストレスが増す可能性
5. 性ホルモン異常
- 無月経や低テストステロン状態により、骨密度低下や不妊リスクが進行
6. 体組成への影響
- 運動が「筋肉増強」につながるのではなく、低栄養下では筋分解・骨量減少が進むことも
「全面禁止」から「安全に管理された運動」へ
従来は摂食障害患者に対して「運動は禁止」とされることが多かったのですが、近年の研究は違う視点を示しています。
- 運動は必ずしも敵ではなく、栄養補給・医学的モニタリングの下で行えば、回復にプラスに働く
- 特に、適切にデザインされた運動は:
- 不安や抑うつの軽減
- 生活のリズム回復
- 体力・筋力の維持
- 「身体を大切に扱う感覚」の再獲得
に役立つ可能性があるとされています。
安全に運動を取り入れるための基準
参考になるのが、Safe Exercise at Every Stage (SEES) ガイドラインです。
これは、摂食障害の状態に応じて「運動をしてよいか/どの程度なら可能か」を段階的に判断するフレームワークです。
- 運動が禁忌となる状態
- 極端な低体重(BMIが危険水準)
- 重度の電解質異常(特に低カリウム)
- 深刻な心機能障害
- 医師が制限すべきと判断した場合
- 修正すれば可能なケース
- 栄養補給が十分に確保されている
- 安全な範囲で強度・時間をコントロールできる
- 医療者やトレーナーのモニタリング下にある
今後の課題と展望
現時点では「どの種類の運動が、どのくらい安全にできるのか」というエビデンスはまだ十分ではありません。特に:
- 有酸素 vs レジスタンス運動の違い
- 運動強度や頻度の目安
- 摂食障害のタイプごとのリスク差
といった実践的なガイドラインは未確立です。
しかし、「運動をゼロにする」よりも、「安全に調整して取り入れる」方向性が世界的に注目されつつあります。
まとめ
- 摂食障害と運動には「リスク」と「可能性」の両面がある
- 運動が危険になるのは、低栄養・電解質異常・心機能障害などがある場合
- ただし安全に管理された運動は、心身の回復をサポートする
- 今後は具体的な運動指針のエビデンス確立が求められる
参考文献
Quesnel, D. A., et al. (2023). Medical and physiological complications of exercise for individuals with an eating disorder: A narrative review. Journal of Eating Disorders, 11, 5. https://doi.org/10.1186/s40337-022-00685-9
Noetel, M., et al. (2017). Safe exercise at every stage: A clinician’s guide to integrating exercise into the treatment of eating disorders. Journal of Eating Disorders, 5, 2.
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.). Washington, DC: Author.
Meyer, C., Taranis, L., Goodwin, H., & Haycraft, E. (2011). Compulsive exercise and eating disorders. European Eating Disorders Review, 19(3), 174–189.


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