「最近、立っていると少し不安定に感じる」
「歩いてはいるけど、地面を感じていない気がする」
そんな感覚を持つ人は、決して少なくありません。
私たちは毎日、当たり前のように立ち、歩き、移動しています。
けれど “足でどう感じているか” については、
意外なほど意識していないものです。
足は「使っているつもり」で、実はあまり使われていない
現代の靴の多くは、
- 厚いクッションで衝撃を吸収し
- 安定性を外から与え
- 足の動きをコントロールする
という考え方で作られています。
そのおかげで、私たちは
足で細かく調整しなくても生活できる ようになりました。
一方で、
- 足裏で感じる感覚
- 指や土踏まずの細かな働き
- 体重を微調整する能力
は、日常の中で使われる機会が減っています。
そこで注目された「ミニマルシューズ」という考え方
こうした背景から、近年の研究で注目されているのが
ミニマルシューズです。
ミニマルシューズとは、
単に「薄い靴」「クッションのない靴」ではありません。
研究で用いられるミニマルシューズには、
おおむね次のような特徴があります。
- かかととつま先の高さにほとんど差がない
- ソールが薄く、よく曲がる
- 足指が自然に広がる形状
- アーチサポートや剛性が最小限
- 足の動きを過剰に補正しない設計
重要なのは、
足を“正しい形”に矯正する靴ではない
という点です。
ミニマルシューズの目的は、
- 足を支えることではなく
- 足が本来もっている
感覚・可動性・筋活動を妨げないこと
にあります。
この研究で行われたこと
この考え方を日常生活に取り入れたのが、
高齢者を対象にしたミニマルシューズの長期使用研究です。
研究の概要
- 対象:65歳以上の男女24名
- 期間:16週間
- 方法:
- クッションやサポートが最小限のミニマルシューズを使用
- 最初は短時間から履き始め
- 徐々に日常生活の中で使用時間を増やしていく
特別な運動やトレーニング指導は行われていません。
「履く環境を変えるだけ」という、非常に現実的な介入です。
何を評価したのか?
研究では、次の2つの側面から変化を評価しています。
① 客観的な評価
- 足裏にある小さな筋肉(足内在筋)
- 超音波を用いて筋断面積(CSA)を測定
② 主観的な評価
- 立ったとき・歩いたときの安定感
- 足裏の感覚
- 痛みや違和感の変化
- 実際に履いてみた印象
つまり、
数値と体感の両方を見ている点が、この研究の特徴です。
結果①|筋肉は「一様に」大きくなったわけではない
まず、客観的な結果から見ていきます。
16週間後、
- 足内在筋全体としては
統計的に有意な筋断面積の増加は認められませんでした。
短期間で、誰にでも分かるような
筋肥大が起きたわけではありません。
ただし、重要な補足があります。
母趾外転筋に見られた具体的な変化
母趾外転筋(Abductor Hallucis)
――親指の付け根を安定させ、立位や歩行の土台となる筋肉――
に関しては、
- 参加者24名中13名で、筋断面積の増加が確認されました。
- この増加は統計的有意差には達していないものの、
超音波評価において「臨床的に意味のある変化量」
と判断される範囲に入るものでした。
つまり、
すべての人に同じ変化が起きたわけではないが、
約半数では、足の使われ方が変化した可能性が示された
という結果です。
結果②|多くの人が「感覚の変化」を感じていた
一方で、参加者本人の体感には
はっきりとした傾向がありました。
- 立ったときの安定感が増した
- 足裏の感覚がはっきりした
- 地面を感じながら歩いている気がする
- もともとの痛みや違和感が悪化しなかった
特に、
バランスや足裏感覚の改善を感じた人は
全体の6〜7割にのぼっています。
起きていたのは「足の再学習」
これらの変化は、
「筋肉が強くなった」というよりも、
- 足裏からの情報が増え
- 無意識の姿勢調整が働き
- 立ち方・体重の乗せ方が洗練されていく
という、
感覚と神経の再学習に近いものと考えられます。
ミニマルシューズは、
- 足を支えるのではなく
- 足が働く余地を残す
そんな“環境”を作ります。
高齢者にとって、なぜ意味があるのか
高齢者の場合、
- 筋力低下そのものよりも
- 感覚低下やバランス不安
- 「転びそう」という恐怖感
が、活動量を下げる大きな要因になります。
その中で、
- 痛みを悪化させず
- 足裏感覚と安定感を取り戻せた
という結果は、
日常生活の質(QOL)に直結する示唆を持っています。
まとめ|この研究が教えてくれること
この研究は、
ミニマルシューズを万能な解決策としては扱っていません。
その代わり、次のことを示しています。
- 履く環境を変えるだけでも
- 足の感覚や安定感は変わりうる
- 特に高齢者では、その変化が体感として現れやすい
ミニマルシューズの価値は、
足を鍛えることではなく、
足が“使われる状態”を日常に戻すこと
にあるのかもしれません。
参考文献
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