私たちは「うつ病」と聞くと、セロトニンや抗うつ薬といった“脳内物質”の話を思い浮かべることが多いかもしれません。
しかし近年、「栄養」とメンタルヘルスの関係を探る研究が増えています。
その中で注目されているのが 亜鉛(zinc) です。
今回は、2020年に発表されたメタアナリシス研究
「Zinc in depression: From development to treatment」 の内容をもとに、
亜鉛とうつ病の関係を整理してみます。
なぜ亜鉛が注目されているのか?
亜鉛は体内で300種類以上の酵素反応に関与する必須ミネラルです。
特に重要なのは:
- 神経伝達物質の調整
- 免疫機能の維持
- 炎症反応の制御
- 酸化ストレスの抑制
脳内では、海馬や大脳皮質に高濃度で存在し、
神経可塑性(ニューロプラスティシティ)にも関与すると考えられています。
この研究は何を調べたのか?
この論文は、
- 観察研究(亜鉛摂取量とうつ病発症の関連)
- ランダム化比較試験(亜鉛補給による症状改善)
を統合した メタアナリシス(統合解析) です。
つまり、単一の研究ではなく、
これまでの複数の研究結果をまとめて評価しています。
主な結果
① 亜鉛摂取とうつ病リスク
亜鉛摂取量が多い群では、
うつ病のリスクが約28%低い という関連が示されました。
これは因果関係を証明するものではありませんが、
「亜鉛不足とうつ傾向は関連している可能性がある」ことを示しています。
② 亜鉛補給とうつ症状の改善
ランダム化比較試験の解析では、
- 亜鉛補給群でうつ症状が有意に改善
- 特に亜鉛単独補給の方が効果が強い傾向
という結果が報告されました。
ただし、研究規模はまだ大きくなく、
今後のさらなる検証が必要とされています。
どうして亜鉛が影響するのか?
考えられているメカニズムは複数あります。
1. 神経伝達への影響
亜鉛はNMDA受容体やセロトニン系に関与します。
2. 炎症の抑制
慢性炎症とうつ病の関連は近年強く示唆されています。
亜鉛は炎症性サイトカインの調整に関与します。
3. BDNF(脳由来神経栄養因子)
神経の成長や回復に関与するBDNFの調整にも関わる可能性があります。
では、サプリメントを飲めば良いのか?
ここが重要なポイントです。
この研究は「可能性」を示しているものであり、
亜鉛だけでうつ病が治ると断定しているわけではありません。
また、過剰摂取には以下のリスクがあります:
- 銅欠乏
- 胃腸障害
- 免疫異常
日本人の推奨量はおおよそ:
- 男性:11 mg/日
- 女性:8 mg/日
耐容上限量は約40 mg/日前後とされています。
栄養精神医学という視点
この研究の背景には「栄養精神医学(nutritional psychiatry)」という考え方があります。
うつ病は単に“心の問題”ではなく、
- 炎症
- 栄養状態
- 腸内環境
- ホルモンバランス
- 酸化ストレス
など、多層的な要因が絡み合っていると考えられています。
亜鉛はその一部を構成する要素の一つに過ぎません。
まとめ
今回の研究からわかることは:
✔ 亜鉛摂取量とうつ病リスクには逆相関がある可能性
✔ 亜鉛補給は症状改善に寄与する可能性
✔ ただし大規模研究はまだ不足している
栄養は「万能薬」ではありません。
しかし、身体の土台を整えることがメンタルにも影響する可能性は十分にあります。
メンタルヘルスを考えるとき、
“脳だけ”ではなく、“身体全体”から見る視点が重要なのかもしれません。
参考文献
Swardfager, W., Herrmann, N., Mazereeuw, G., Goldberger, K., Harimoto, T., & Lanctôt, K. L. (2020).
Zinc in depression: From development to treatment: A comparative/dose-response meta-analysis of observational studies and randomized controlled trials.
Pharmacological Research, 155, 104694.
https://doi.org/10.1016/j.phrs.2020.104694


コメント